フードスタンド製作物語(前編)
ストリートテーブルの主役の一つ、フードスタンド。
一人の設計者が同じデザインでつくったスタンドが並ぶよりも、できるだけ多くの設計者に参加してもらいたい。そんな想いから参加してくれる製作チームを集めはじめ、最終的に8組のチームが個性あふれるフードスタンドを設計・製作してくれました。
フードスタンドの設計条件は、もちろん衛生的にフードを提供できる機能性が最も重要ですが、私たちはコミュニケーションも大切に考えました。8台のスタンドは全てカウンターに座ることができますが、これは店主さんとお客さんがコミュニケーションしやすい空間になるように、製作チームのみなさんにお願いしたことです。
時間がないなかで工夫して作りきってくださった8台のスタンドから、今回は前編ということで会場の東側に並ぶスタンドを北から紹介します。
まずは会場の鬼門を守るこのスタンドから。
製作は合田チーム。新長田の六間道商店街のレンタルスペースr3の合田昌宏さんが設計製作をリードして、大工の金澤貴成さん、テント制作施工の篠原祥二さん、板金でカウンターを施工してくれた中田英幸さんといった、職人さんたちが支えた専門家チームです。
会場と同じく建築の仮設資材からできていて、すっきりとしたカウンターが人目を捉えます。蛇籠を使ったカウンターベンチも通ごのみ。会場中心にある傘のシャンデリアも合田さんの作品なのですが、いつも素材の遊びゴコロあふれる新しい使いかたを発見して、見せてくれる合田さんらしいスタンドです。
このスタンドの特徴はカウンターの横に斜めに設置されている単管。こうやって斜めに設置することで強度を増しているとのことで、昔ながらの縁日の屋台と同じ構造をしています。よく見ると、ひとつ隣の竹のスタンド(後述)も全く同じ構造。すっきりと見える合田チームのスタンドですが、屋台界の建築史みたいなものがあったとしたら、正統派に位置づけられるのかもしれません。
次に竹材が注目のこのスタンド。
製作は今津チーム。MuFFの今津修平さんを中心に、設計と製作を秋松麻保さん、北川浩明さん、松井俊裕さん、矢野直子さん、織田楓花さん、丸山大輔さん、森亮太さん、吉岡静句さんと合計9人で分担し、左官仕事を八田公平さんに指導してもらうことで完成にこぎ着けました。
サステイナブルに会場を設営しようとするコンセプトに共感し、竹材を山から切り出すところからスタートした伝統的な自然素材のスタンドです。屋根部分も竹で組み、カウンターは左官材料で仕上げた力作は、ストリートテーブルの中で最も落ち着く場所かもしれません。
こちらのウェブサイトにも、製作途上の写真がふんだんにおさめられています。全てが自然に還る素材から生まれた、究極のリユーススタンド。会場内で一番の個性派スタンドをお楽しみ下さい。
3つめは透明感あふれるこのスタンド。
製作はDBYM。このクラフトマンシップあふれる設計事務所を主宰する楠目晃大さんが設計製作を担い、唐溪悦子さんが製作サポートして完成しました。
会場に運び込まれる際に驚いたのは、これで本当にスタンドができるの?と思えるほど、材料がコンパクトだったこと。木材(通称ダイサン)やポリカの波板といったホームセンターでも手に入る一般的な材料を組み合わせてつくられています。
注目はこの写真にも写っているグレーの金物、2人で自作したという1種類の金物で全ての接合部を処理しているところに、機能的な美しさを感じます。
コンパクトで普遍的な材料と自作の金物で、調理する側もカウンターに座るお客さんの側も心地よく、お互いにコミュニケーションを取りやすいスタンドが完成しました!
そして最後に、小気味よく仕上がったこのスタンド。
製作は神戸大学チーム。高橋和志さんと、上山貴之さん、吉川文乃さん、黒木孝司さんのチームが力を合わせて設計し、最後は「コサエル家具道具」の大森恵助さんに製作してもらうことで完成!しました。
今の時代だからこそ、設計を通してお店の人と来場者の距離感を可視化することを意図した作品です。ソーシャルディスタンスを分かりやすく表現するために、当初はテキスタイルで客席を覆うことも計画されていました。
その後検討を重ねるなかでテキスタイル自体は実現しませんでしたが、家具職人の大森さんの力でコンパクトに仕上がったスタンドは、牡蠣スタンドとしての用途とみごとにマッチして、親しみやすいムードにあふれています。ソーシャルディスタンスの可視化を狙った設計が、最終的に人と人の親密な距離感を感じさせる結果になったのも、おもしろいですね。
以上、今回はストリートテーブル会場のフードスタンドのうち、東側に並ぶ4軒の製作物語を披露しました。
聞き回ってみると、私も知らなかった製作秘話がこの東側4軒にはあふれていました。次回は後編として西側4軒をご紹介します!お楽しみに。
文章:村上豪英